第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
刀を持つ手に静かに力を入れ直した時、バタバタと後ろから足音が響いてきた。
「政宗!」
信長が寄越したのだろう、秀吉が政宗の邪魔にならないよう少し後ろで止まる。
人が集まりだし、不利な事を悟った吉次からは笑みが消え失せ、キョロキョロと落ち着きなく周囲を窺っている。
「この廊下で刀を振るうのは不可能に近いのじゃありませんか?それに、こうすれば…」
吉次は、抱いている桜を持ち上げ、抱っこをするようにしっかりと密着させる。
「桜様を傷つけずに私を斬ることは不可能…」
吉次が言い終わらないうちに、政宗は足を踏み出していた。自分の策に自惚れ、余裕ぶって話す今が好機。
手にしていた刀を低く構え、吉次の足元を斬りつける。
「がっ…!」
左足のふくらはぎを斬られた吉次は、それでも桜を離さなかった。そのせいで次の一太刀を浴びせようと思っていた政宗の動きが止まる。
足を引きずりながらも、吉次は桜を抱いて、素早く桜の部屋へ逃げ込んだ。
「待て!」
声を上げて吉次を追う秀吉の後に、政宗も続く。部屋を突っ切り、庭へと降りた吉次の目論みは失敗に終わる。
庭は低い生け垣があるだけで、並ぶ部屋との仕切りはないのだ。三成の部屋の方へ行こうとして、にやにやと待ち伏せる光秀と鉢合わせた。
「遅かったな…待ちくたびれた」
「くそ…」
「お前が逃げそうな所は既にふさいだ」
光秀から後退り、庭の奥までじりじりと後退していく吉次。政宗は静かに近づいていく。
「桜を離せ。おとなしくしてれば、今なら殺さないでおいてやる」
「…分かりました」
やけに聞き分けがいいな…。
そう思った刹那、吉次が背後の崖をちらりと見やり、政宗の頭に警報が鳴り響く。
政宗が刀を放り出して駆け出すのと、吉次が抱いていた桜を崖に向かって放り出したのは、ほぼ同時だった。