第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
それは少し前に、さかのぼる。
ガラガラと引き戸の開く音に、玄関を通りすぎようとしていた政宗は、口の端を上げて笑った。
「お、生きてたか」
「…何とか」
少しだけばつの悪そうな顔をした家康は、それだけ返すとさっさと中へ入って来た。
「遅かったから、打ち首にでもされたのかと思ったぞ」
「人を勝手に生首にしないで下さい。一人で買い物してただけです」
履物を脱いで上がった家康が、じろりと政宗を見る。
「それより…何してるんですか、こんな所で」
「飯が結構旨かっただろ?名物でも教えてもらおうと思ってな」
「この宿じゃ玄関で料理するんですか、変わってますね」
「んなわけあるか。今から行くんだ」
機嫌が悪いのか、皮肉がいつにも増して刺々しい家康に苦笑する。
「お前は秀吉にでも、小言を貰ってくるといい」
政宗の言葉に顔をしかめた家康と別れ、政宗は台所へと向かった。
―――ん…?
台所が妙に静かだ。もうすぐ食事時だというのに。あるいはすでに完成していて、出払っているのか。時を間違えたか、と思ったけれど、何となく中を覗いてみる。
台所の端で、吉次が政宗に背を向けてお茶の準備をしているようだ。
なんだ、いるじゃねえか。
声をかけようとして、動きが止まる。並んだ人数分の湯呑。その内の一つを脇によけ、懐から出した何かを入れたのだ。
吉次の背中が邪魔で全ては見えないけれど、行動は不審極まりない。盆の上に湯呑を戻し、他の湯呑と共にお茶を注いでいく。