第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
「桜」
「桜っ…」
耳慣れた声。
名前を呼んでくれるその声は、ひどく苦しげで。早く、答えなければと思う。
むせかえるような草の匂いと、体を抱かれる腕の感触。沈んでいた意識が徐々に浮上する。
「…ま、さむね…?」
瞼をゆっくりと開けると、辛そうな瞳にぶつかる。ぼんやりと見返していると、見開かれた瞳がぐっと何かをこらえるように歪んだ。
「起きたか…良かった」
「…政宗、私…?」
「…落ちたんだ」
政宗の肩越しに、辺りを見回してみる。崖の上に宿が見える。落ちていく途中で引っかかったのだろうか、崖の中腹で座り込む政宗に、しっかりと抱きしめられている。よく見てみれば、二人とも土や葉で汚れていて。
落ちた…?どうしてだっけ…。
まだはっきりとしていない記憶を必死に手繰り寄せる。信長様と宿へ戻って来た所までは、はっきりと思い出せるのだけど。
「あの野郎…吉次が」
忌々しげに呟かれる名前。
「あ…」
その瞬間、記憶が蘇ってくる。
そうだ、一人で部屋へ戻っていたら、急に吉次さんがやって来て。
「俺の、せいだ」
「え…?」
思いがけない言葉に、政宗の顔を見返した。桜を抱く腕に、力がこもる。