第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
「金魚にでもなったの」
「だ、だって」
家康の言葉に桜は、視線を泳がせる。家康が自身の気持ちを吐き出したせいか、今の桜がとる行動に、いちいち鼓動が高鳴る。
この子、何でこんなに可愛いの。
ここまで来るともはや罪だ。無自覚なのだからたちが悪い。離していた腕をまた桜の背中に回して抱き締める。
「桜…可愛い」
「家康…も、もう言わないで」
「どうして」
「は…ずかしい…」
「恥ずかしがる桜も可愛いけど」
「もう…」
まさか家康に、こんな勢いで口説かれるとは思っていなかった。覚悟していたつもりだけれど、これ以上言われたら今度こそ溶けだしてしまう。
「家康だって、素直になると可愛いよ」
「は…?」
家康はつい力が抜けて、腕から桜を解放してまじまじと見る。
何言ってるの、この子。
せめてもの反撃のつもりなのか。可愛いと言われても、家康にとっては褒め言葉でも何でもない。
「可愛いのはあんたでしょ」
「え、だって…」
「うるさい。まだ言うなら…その口、ふさぐよ」
親指でつ、と桜の唇をなぞる。口づけくらい、してもいいだろうか。そのまま顎をつかんで、すくいあげる。
「…家康…」
熱を宿した瞳が桜を映して、二人の視線が絡みあい、そのまま顔が近づいていく。