第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
普段ひねくれた物の言い方ばかりしているせいか、素直な想いが胸に響いてくる。桜は、何か言わなきゃと思うけれど、身体が熱くて声もでない。
うう…顔あげられない。
「…とりあえず、早く食べなよ」
「う、うん…」
それだけ言葉を交わしてから、顔を上げないままなんとか蕎麦を食べ終えた。
店を出ると、家康は桜の腕をぐいぐい引いて歩いていく。少し乱暴な仕草。桜は黙って着いていくしかない。
怒らせてしまった…?
もしかしたら家康は、桜にどう伝えようかきちんと計画していたのかもしれない。それをぶち壊してしまったのなら、怒らせても仕方がない。
家康は店のある通りを一つ過ぎて、川沿いの道に出た。宿の側を流れるあの川の下流だろうか。
一軒の店の裏側に桜を引き寄せると、壁に押し付ける。家康の少し怒ったような顔が、目の前まで迫った。
「家康、怒ってる…?」
「うん、少しね」
「ごめんなさい…」
「謝れとは言ってない。でも悪いと思うなら…」
家康はそこまで言うと言葉を区切り、桜を優しく抱き締めた。怒っていたはずなのに、その仕草は壊れ物を扱うより丁寧で。
「家康…」
「我慢して」
「は、はい」
家康の腕の中で大人しくなる桜。それに気を良くして、抱き締める手に力が入り、二人の体はぴったりと寄り添う。