第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
もう後は帰るだけ、だと思うんだけど。
向かいで蕎麦を手繰る家康をちらり、と見る。一緒にいる間、口説くとか想いを伝えるなんていうそぶりはなかったように思う。
家康は違うのかな。
それならそれでも全く構わないが、桜の脳裏に朝抱きしめられた記憶が蘇ってくる。
好きでもない人にああいうことする人じゃない…よね。
「どうしたの」
食べる手が止まっていることに気付いて、家康が桜を見る。
「あ、何でもない」
「ぼうっとしてると、伸びるよ」
「そうだね」
食べることを再開しながらも、気になって仕方がない。そわそわと落ち着かず、蕎麦の味も良くわからなくなってきた。
いいや…聞いちゃえ。
「ねえ、家康も私のこと好きなの?」
「うッ!?げほごほっ…」
桜が放った衝撃の言葉に、家康が盛大にむせた。桜が慌てて茶を差し出すと、やっと息をついた。家康のその顔が赤いのは、むせたせいか、否か。
「あんたね…」
「ご、ごめん…」
「…はあ」
視線を反らして大きくため息をついた後、家康は、桜を真っ直ぐに見つめた。
「そうだよ。俺はあんたが好きだ」
「…っ」
「自分で聞いたくせに、何驚いた顔してるの」
「ごめんっ…」
正面から桜をみる家康の顔を見返すことが出来ない。家康の言う通り、尋ねた桜自身が驚いて、その直球な物言いに顔に熱が集まっていく。