第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
少しの間とはいえ、桜を放っておいたことへの罪悪感。その間に起きた問題を他の男が解決してしまったことへの自己嫌悪。それを見た時にもたげた独占欲。様々な黒い感情がない交ぜになって、家康の中を駆け巡る。
家康の気持ちも知らずに、不思議そうにしている桜をじっと見て。
この子を手放したくない。
まだ、手に入れてもいないけど。
結局いつもその結論に達するのだ。自分の中に、ここまでの執着をみせる気持ちがあることに驚くけれど、他の奴のそばにいるのを見たくないのだから仕方がない。
「…ふう」
回る思考を止めて、息を吐いて気分を入れ替えて。桜の手を取る。
「他もまわるよ」
「うん」
繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
その後、いくつかの店をまわり、城の女中への土産なども買ってしまうと、用がなくなってしまった。
「もうほとんど、見ちゃったね」
「そうだね」
買った荷物を桜から取り上げる家康に礼を言う。ふわり、と漂ってきた匂い。
「あ…いいにおい」
だしの匂いに桜の空腹が反応してしまう。匂いの元は蕎麦屋だ。温泉があって、川があれだけ綺麗なら、きっと美味しいに違いない。
「お腹すいちゃったね」
ふふ、と照れたように笑う桜。
家康が真面目に見返す。
「宿まで、我慢できない?」
「あっそうだよね。宿で作ってるよね。帰ろうか」
蕎麦屋の前を過ぎようとする桜を、家康が引き止める。
「そうじゃない」
「…はい?」