第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
ふっと我に返った桜は、三成との距離の近さに急に鼓動が早鐘を打ち出していた。顔を慌てて正面に戻し、無意味に棚を見て気持ちを落ち着かせようと努力してみる。
「桜様?」
不思議そうな三成の声音。右手をとんと棚について、桜の顔を覗き込もうとして、さらに顔が近づいてくる。
わ、わ…ッ!
「何でもないよ、続きするねっ」
空いていた左側から逃げ出そうとしたけれど、腕を掴まれる。
「お待ち、ください」
「え…っ」
三成が、掴んだ桜の腕を引き寄せる。
「血が、出ています」
「…血?」
どこに、と自分の手を見ると、人差し指から一筋血が流れている。全く気付かなかった、紙で切ったのだろうか。不思議なもので、自覚するとひきつれたような痛みを感じる。
「ほんとだ…。巻物、汚してないといいけど」
「そんなことは、どうとでもなります。今は、ご自分の心配を」
少し怒ったように眉根を寄せた三成に、桜は笑いかける。
「大丈夫だよ、このくらいの傷なら放っておいても…」
「いけません、傷を甘くみては…」
まるでプリンセスの手に口づけるように。優雅な仕草で桜の手を持ち上げた三成は、傷口に唇を寄せた。指先をくわえて傷口に舌を這わせる。
「ひゃ…ッ!?」
ぞくりと桜の肌が粟立って、反射的に声を上げる。羞恥に身体がかっと発熱した。