第15章 温泉旅行へ*2日目午前編*
「もし三成君が良ければ、片付けくらいするよ」
「いえ、それは…」
「三成君はその間、続きを読んでいたらいいし。…どう?」
「それ、は…願ってもないお話ですが…」
「じゃあ決まりね?」
半ば桜が押し切る形で。午前中の静かな時間を、二人は書庫で過ごすことに決めた。
積み上げられた書物。三成のそばを行き来しながら、少しずつ棚へと戻していく。
時折、自分でも読めそうな絵巻物などが出てくると、作業の手を止めて中身を読んでみたりして。元々本が嫌いではない桜は、作業をそれなりに楽しんでいた。
それに正直、書物に向き合っていれば、三成を意識しすぎたり、余計な事を考えずに済む。
いつの間にか書物の整理にすっかり熱中していた。床の山はあと一つ。戻すべき棚が、桜が見上げるほど高い。
あれなら、背伸びすればいけるかな。
棚とにらめっこして、手を伸ばす。巻物が半分ほど乗った。
あと、ちょっと…。
もう一度背伸びをして、指で押し込めば入る。だがその前に、バランスの悪さに耐え切れなかった巻物がぐらりと傾いだ。
あ、落ちてくる!
慌てた桜の後ろから、それを簡単に棚に押し込む手。
「危ないですよ、桜様」
「三成君、ありがとう」
見上げるように振り向いて礼を言えば、優しい目が見返してきた。