第2章 名前を呼んで(篠宮END)
仕込みを早々に終わらせたは、流し台に残った洗い物を済ませようと水を流す。
「先輩、あとは何?」
客席の片づけをしてくれていた恭が戻ってきて、の手元をのぞき込みながら尋ねてくる。
「もうこれ洗っちゃえば終わりだから、篠宮くんは戻ってもいいよ?」
「それなら、待ってる。…そういえばさ…」
「なぁに?」
「先輩、さっき屯所で何の話してたの?」
恭がふきんで、洗い終わった皿をふきながら尋ねる。
「仕事を手伝ってくれっていわれたよ」
「…仕事?」
ぴくりと恭が反応して、続きを促すようにを見てくる。
「うん、なんか不穏な噂があって、それを確かめたいけど男だけじゃ目立つから、一緒に来てくれないかって」
「ふうん…あれか…」
合点が行ったようにぽつりと呟くと、持っていた皿を背後にある棚にしまう。
「先輩、それOKしたの?」
「一応…でも、具体的な話になる前に篠宮くんが来たから…」
皿を洗う手はそのままに、の後ろから聞こえる恭の声に返事をすれば。
恭の腕が背後からを包んで、ぎゅっと抱きしめられた。突然の恭の行動に、びくりとする。
「っ…どうしたの…?」
「それ…断ってよ」
恭がの耳元で囁くように話す。
恭の吐息がの耳朶をくすぐって。
いつの間にか皿を洗う手も止まってしまっていて、
流れる水の音と、ドキドキとうるさい自身の心臓の音だけが聞こえる。