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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第10章 生殺与奪


牡蠣殻の顔をじっと見て、海士仁は頷いた。

「そうか。・・・有り難う」

「えぇ?初めてお前に礼を言われた」

「そうだったか?」

「凄い変わり様ですよ?誰だ、アンタ」

「口をきかずに子を育てるのは難しい。その余録だ」

「その・・・一平くんは今どうしてるんです?まさか一人にしてないでしょうね?」

「子供好きで男好きの爺がみてくれている。変わり者だが会って驚くなよ」

「会って驚く?そんな凄い変わり者のお年寄りを紹介しようってんですか。何で?」

「馬鹿。察しが悪いのもお前の悪癖だな。一平に会いたくないのか?」

「会いたい」

即答した牡蠣殻から目を反らし、海士仁は静かに手当てを始めた。

「・・・お前は」

「うん?」

「お前は波平と添う気はあるか」

「え?」

呆気に取られる牡蠣殻に海士仁は笑みを見せなかった。

「ないなら早く草を出ろ。後宮で道化ているとロクな事にならない」

「・・・・私は道化に来た訳じゃ・・・」

「目的は忘れろ。耳を塞げ。目を閉じろ」

「何もするなって?」

「そうだ」

「・・・・・・」

「・・・その首の守り。あの男からか」

言われて牡蠣殻は胸元の指輪を握り締めた。

「・・・そう。貰った」

「大事なものを失くしたくなければ話を呑み込め」

牡蠣殻はぎゅっと眉根を寄せて器用に包帯を巻く海士仁の細長い手を眺めた。

「何が言いたい?」

「額面通り」

「・・・言い出しといて面倒がるな。海士仁?」

「面倒」

「波平様と草に何の関係があるんです?」

「無いが有る」

「海士仁」

「話は終り。帰る」

手早く後を片付けて、海士仁は眉を上げた。

「来ないか?」

「行くけど・・・」

「なら話は終り。だが忘れるな」

「・・・・わかった・・・」

仕上げに海士仁が放って寄越した増血剤を口に含み、牡蠣殻は腑に落ちないながらも頷いた。

一平に会いたい。その気持ちが大きい。

師の忘れ形見。会わずにいられるものか。














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