第8章 華やかな垣根の向こう
覚えのある生温かい風が、くるくると花片を孕んでつむじを描く。
それに纏いつかれるまま、鬼鮫は誰も居ない花盛りの園地から目を離さないでいた。
たった今見止めてまた見失ったものが、まだそこにあるかのように。
「・・・・いたなァ・・・・」
デイダラの力の抜けたような呟きが鬼鮫を引き戻す。
「・・・・いた・・・・・いたけど、変わったな・・・うん」
眼鏡のないあの女の事を言っているのか、それとも違う誰かの話なのか、判然としない。しかし今の鬼鮫にそれはどうでもいい事だった。
花の香りが戻った。
そこにほんの僅か、煙草が混じり匂う。
逃げ水の風情は変わらない。だが生きていた。
奪える命がまだある。完全に取り零してはいないのだ。胸が広がるような心地を鬼鮫は静かに受け入れた。
牡蠣殻。
ここで何をしている?何故あの女と居るのだ。
いや、どうでもいい。
見付けた。捕らえる。
それだけだ。