第6章 満月
「新作は流石にマズイと思ったのか、半日になってましたねえ・・・」
「それだって十二時間よ!?またしても付き合わされる方の身にもなれってのよ!マジ疲れるわ、あの漢!!!」
「でも漢なんですね・・・」
「漢じゃない!?ジョン・マクレーンかハリー・キャラハンか、チャールズ・インガルスかってくらい漢よ!?」
「・・・?何か混じりましたね?大草原で小さな家の開拓時代があれやこれや的なのが?」
「父さんサイコーじゃない!?あんな漢が父さんなんて、メアリーとローラが羨ましいわ!キャロラインが憎い!憎いィ!!!」
「落ち着いて下さい、大蛇丸様。母さんは普通の男目線で見ると理想の連れ合いですよ?チャールズこそムカつく・・・」
「何ふざけた事言ってんのよ!?アンタなんか父さんの斧で即沈よ!」
「何ですか。母さんの包丁さばきを甘く見ないで下さいよ。うっかり僕に手を出した日には真顔で父さんを斧ごと切り刻みに来ますよ、彼女は」
「そんなキャロラインは認めません!」
「そんなチャールズもありゃしませんよ!」
「・・・・・・・」
完璧に脱線して討論を繰り広げ出した二人を置いて、牡蠣殻はそっと部屋を出た。
明け始めたスッと薄青い空の端に、頼りなく白々とした満月が引っ掛かっている。
窓からそれを見止めた牡蠣殻は、窓枠に肘をついた。
朝方の冷たい空気が清々と辺りを満たす中、隈で目の下を黒く染めた牡蠣殻は欠伸をしてやおら窓枠を乗り越えた。
表の桜の木に手をかけ、するすると登り出す。
「・・・・・」
落ち着きのいい大振りな枝に辿り着くと、そこに身を預けて息を吐く。腹の上で手を組み、牡蠣殻は目を閉じた。
瞼の裏に満月の円がしばし揺れ、やがて消える頃、牡蠣殻は深い寝息を立てていた。