第2章 春の磯
本草の里磯が慌ただしくなる季節が来た。
種々様々な草木が芽吹き出すこの頃から、磯の移動は実益を兼ねて頻々となる。
更にこの春から磯は、今までしてこなかった公的な取引を始める事になっていた。木の葉と砂、この大きな二里を相手に薬草を扱う。
「生のモンに限るでしょ。質を考えんならさ」
「日持ちが悪くて扱いが面倒でしょう。闇雲に高価な薬材を売るのはいただけないな」
「扱いうんぬんは買った側の問題でしょうよ。子供あやすんじゃないんだから、変に甘い事気にすんのは相手に失礼ってモンです」
「人の体に関わる大事ですからね、薬草を扱うという事は。安易な真似は出来ませんよ」
「・・・ンな事言ってたら商売にならねえんじゃねえですか?何せこの筋じゃ半端なく幅きかせてるとこがあんですからね」
「草の真似をして薬草を扱うくらいなら、また里を閉じた方がいい。良い方向へ向かうために変わろうというのに、手本を選ばずにどうします」
「手本たって、見当がつきませんよ。手本?どこの誰の何を手本にしようってんです?この市場は草の独壇場ですよ?おい、ちゃんと考えて話しやがれ、ハゲチャビン」
「ちょっと待て。 私はハゲじゃないぞ?人の頭を見てものを言いなさい、藻裾」
「・・・・・・俺もう帰っていいスかね?」
「何言ってんですヨ、相談役さん。まだゼンッゼン話ァ決まってねぇですよ?誰が帰すか、ハハハ」
「ハハハじゃねえだろ!だったらサクサク話を進めろ!大体俺は薬草の話なんかされても訳がわかんねんだよ!もっと話を詰めてから呼べ、一から付き合わせてンじゃねえ!」
「あのよ?奈良はしょうがねぇじゃん?木の葉に残った磯人の相談役だもんな。磯から仕事を委託するって話もあるんだから、じっくり付き合わなきゃねえよ」
「だよな?てか、何でジャンジャンがここにいんの?どうした?何か用か?」
「ほらな!ほらな!だから来たくねえっつったんじゃん!俺だって好きで来たんじゃねぇよ!薬草なんざ奈良どこじゃなくチンプンカンプンだわ!大体俺は出来るだけオメエのいないところでひっそりしててェんだよ。なるたけオメエのない人生を送りてェの!それが何でわざわざテメエから出向いて何か用かとか言われなきゃねぇんじゃん!?文句なら我愛羅に言えってんじゃん!アイツが行けっつったから俺ァここに来る羽目になったんだからよ!?」