第5章 草という里
「タダで教えられるか。聞きたければ金を払え」
イタチがプスッと上品にお茶を噴いた。
それを横目に角都は更にグッと手を押し出す。
「俺とてもタダで情報を得ている訳ではない。草の者と渡りをつけるのにも時と金がかかった。浮輪はお前の知りたがった事に金を払ったぞ?お前も知りたければ財布の口を開けろ」
「馬鹿らしい」
鬼鮫は角都の手を冷たい目で見下ろして立ち上がった。
「知りたくないのか?」
「結構ですよ」
窓表を眺めて鬼鮫は眩しげに目を細めた。
雲雀の鳴き声に紛れて、時折低く独り言ちるような音が聴こえて来る。
雪渡りだ。
鬼鮫はそのまま無言で広間を出ていった。
後に残った三人も、暫し黙り込む。
「・・・草に牡蠣殻の知己がいるとして、それは牡蠣殻が草という里を承知の上での付き合いなのか?考えづらいな」
噴いて嵩の減ったお茶を呑みながら、イタチが誰に聞くともなく呟いた。
「知り合った相手がたまたま草だったとすれば、十分ある事だろう」
角都が算盤を鳴らして答える。
「磯の者がハナから草とわかって親交を持とうとするとは考えづらい。逆もまた然り。そういうものらしいな?」
「草という里は」
サソリが傀儡の関節に埋め込む球を紙ヤスリで削りながら低く言った。
「影に回れば大きく毒を扱う里だ。まぁ、扱いやすいモンじゃねえ」
表の雲雀の鳴き声が、より高くなった。
鬼鮫の姿が伺えた。その頭上近くを白い鳩が旋回している。
雲雀は鬼鮫と雪渡りに警戒して高鳴きしているのだろう。
激しく羽ばたきながらホバリングしているところを見ると、近くに雛を抱えた巣があるのか。
それを横目で眺めながら、サソリは面倒そうな顔をした。
「・・・・下らねえ。巻き込まれんのはごめんだぞ、俺は」