第20章 杏可也、そして牡蠣殻。
「なのにあなたはこの人に毒を盛った。何を呑ませたかは知らないが、あなたがこの人を苦しめたのは間違いない。ならばそれは毒でしょう。矜持を新たにしたのならそれに相応しいところにいればいい。責めはしませんよ。よくある事です」
顔を背ける牡蠣殻の口元を親指の腹で拭いながら、鬼鮫はくっと口角を上げた。
「三度」
水差しの水を直に牡蠣殻の口に注ぎ込んで呑み込まず吐き出さぬよう掌で蓋をしながら、さもどうという事もないように数える。
「あなたは三度、この人に傷を付けた」
海士仁が静かに立ち上がった。
再び牡蠣殻を吐かせながら、鬼鮫は海士仁を見やった。
「四度目はありません。次に会ったらば、私は間違いなくあなたを殺す」
当たり前の事を言うように何気ない鬼鮫に海士仁は笑った。
首を擦りながら牡蠣殻を見下す。
肩で息をつきながら確かに見返すかつての同門の徒に、懐かしむような目を見せて息を吐く。
「俺はまだ死ぬつもりはない」
口角を上げて二人に背を向ける。
「せいぜい気を付けよう。ー鮫と虚貝に」