第19章 この際牡蠣殻は関係ないらしい。
ああ、成る程。こんな人もいましたねえ・・・
始めに牡蠣殻の、見逃しようのない薄い背中が目に入った。
次に、砂の傀儡使いと視線が絡む。
牡蠣殻の雪中花を持っていた。命の恩人と聞いた。
確か、風影の兄。カンクロウだったか。
「・・・・・・」
鬼鮫が口を開く前に、カンクロウが牡蠣殻に当て身を食らわせた。不意を突かれてまともに食らった牡蠣殻は、声もなく崩折れる。
・・・何だってこの人は、こうも始終痛い目にあうんだか・・・
驚くより呆れて鬼鮫は足を踏み出した。
「何だっていきなりそんな真似をするんです。その人が私に気付いちゃマズいんですかね?」
カンクロウの目を見たまま、その目の前、牡蠣殻の側に立った。
「見ての通りこの人は怪我を負ってましてね。他でもない私が負わせたものですが、兎に角痛い目は間に合ってますよ。何ですかあなたは、折角売った恩を買い戻すつもりですか。まあ私としては大歓迎ですが。この人が恩だの何だの言う相手が増える程、私が往生するのは目に見えてますから」
「コイツの事でアンタが往生する必要ないじゃん?アンタコイツの保護者か」
カンクロウが顎を上げて腕を組んだ。
「コイツ呼ばわりですか。また随分と気安い。命の恩人ともなると自然態度も大きくなる訳だ。・・・小者ですねえ。あなたこんなところに何しに来たんです?」
「牡蠣殻を連れに来た」
鬼鮫の眉が上がった。
「ほう。それはそれはお疲れ様です。無駄足はまた一段と疲れるものですからね。早く帰って休んだ方がいいですよ」
「いきなり帰す構えかよ」
「抱き締めて大歓迎しろとでも?いいですよ、さあ来なさい。腰をへし折って差し上げましょう」
「・・・何か俺、アンタ嫌いだなあ・・・」
「良かったですね。わたしもあなたが嫌いですよ」
鬼鮫は牡蠣殻を見下ろして薄く笑った。
「この人をどうするつもりです」
「砂に連れて行く」
「何のために?」
「コイツが自分を好きになれるようにだ。自分を大事に出来るようにだ」
「易々と人の話を聞くような人ならハナから痛い目になどあってないんですよ。全然わかってないんですねえ・・・」
「コイツは悪い事なんかしてねえじゃん」
「私は随分と迷惑をかけられてますがね」
「兎に角、連れてくんだよ、俺は」