第13章 鬼鮫と磯辺
肩の上で牡蠣殻が寝ている。
表で寝るようなガサツな牡蠣殻だから驚くに値しない。値しないが身を預けて来る感触に実感が涌かず、喉が詰まるような心地がする。いつまた失せるかとふわふわと心許ない牡蠣殻の腰をしっかりと抱えあげて、鬼鮫は大股に歩く。
最後に健やかな牡蠣殻を見たのはいつだろう。木の葉で行き別れたときか。差し向かいで酒を喫して鎖をつけたあのとき。
砂で再び見付けたときには痩せてボロボロで目の下に隈していた。あまつさえ別れたときには死にかけという始末。
今回草で相見えた牡蠣殻は幾らか肉付きは良くなっていたが更に隈が尋常でなく、疲れて投げ槍になっていた。表で手当たり次第に寝込むという奇行まで目の当たりにして呆れるばかり。
よくよく面倒な女だ。出会って腹立ちを覚えてからこの方、迷惑しかかけられていない気がする。
とは言え、自分から関わっている事も否めない。そう思うと溜め息が出る。
一体何をやっているんだか・・・
「おっと。何だ、土産つきでご帰還か、働き者だねえ、鬼鮫」
「牡蠣殻か、それ?いよいよ殺っちまったのか?うん?」
「おいおい、殺しちまったら土産になんねェぞ?」
「生きてたって死んでたって構わねえだろ。何処にいるか教えりゃいんだから、うん。仕事は終わりだ。後ン事ァ知らねえ」
「磯に渡してやりゃ金になんだろ?・・・死んでても金ンなるかな」
「知らねえって。仕事は終わりだっつってんだろ、うん?」
「・・・・・・あなたたちはここで何をしているんです?」
鬼鮫に与えられた筈の室に、飛段とデイダラが寛いでいる。
鬼鮫は寸の間立ち止まって二人を眺め、寝台へ足を向けた。
「何をしているんですじゃねえよ、何伸び伸び所在不明になってんだ、テメエはよ。あン?」
「所在不明?ずっと草にいましたよ、私は」
横たえた牡蠣殻の寝息が指にかかる。思い付いて顎を持ち上げると、僅かに口が開いて歯の欠けた口中が覗いた。
「・・・ぶっ。何で歯ッ欠けになってんだよ、牡蠣殻!?歯医者か!?歯医者ン行ってたのか!?面白ェ顔になったな、うん?」
噴き出したデイダラに鬼鮫は底意地悪い顔を向ける。
「杏可也とかいう人に会いましたよ」
「あ?」
デイダラが虚をつかれて間抜け面をした。鬼鮫は腰を伸ばして腕を組むと、フンと顎をあげた。