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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第3章 疑心暗鬼


世は並べて事も無し。

まさにそんな日和の只中で、分けても事の無さそうな様子で居眠りする男の姿を眺め、綱手は苦微笑した。

木の葉の政務室、窓辺りの椅子。豪快にイビキをかきながら火影の座す場所を占拠して憚らないのは、自来也。

大事な書類が載った卓に足を上げ、椅子の背に体を預けて油断しきった間抜け面でぐうぐう言っているこの旧知の男の呑気さに、最近居座り続けていた綱手の眉間の険しい皺が、一時姿を消した。

「全く、相変わらずだな、お前は」

可笑しげに呟いて腕組みした綱手が、卓の縁に浅く腰を預けて、フッと笑みこぼれたのか溜め息を吐いたのか図りかねる息を洩らす。

「何だ、ババ臭い。溜め息なんかつきおって」

ぐっすり眠っていると見えた自来也が、目を閉じたまま口角を上げた。

「溜め息は若くて可愛いオネーチャンが吐くからいいんだぞ?ババアの歳になると辛気臭いだけだ。息と一緒に寿命まで抜けちまうわ。止せ止せ」

「・・・・誰がババアだよ、このジジイ」

拳を振りかぶって青筋の浮かんだ笑顔を向ければ、自来也はパチリと目を開いて大きく笑った。

「相変わらずだの。火影になっても短気は変わらんなあ」

「肩書きくらいで変わる性ならこの歳になる前にとっくにどうにかなってるよ」

拳を収めてニヤッと笑い返すと、自来也は欠伸混じりで伸びをした。

「三つ子の魂百までってヤツだ。わしもお前も、大蛇丸もな」

稀代の忍で女好きで、しょうもない著作をもつ人気作家は、もう一度大欠伸してバリバリと胸元を掻いた。

「何処に雲隠れしたか、大蛇丸のヤツァさっぱり見つからん。元から足取りの掴みづらいヤツじゃあったが、今回はいつにもまして姿が見えん。神隠しみたようじゃぜ?」

「・・・神隠しか・・・・磯絡みだけにあながち間違いでもないかも知れんな」

「磯は黄泉隠れだろうが。らしくもないな、綱手。一体に神隠しなんてモンがあるわけないだろ」

自来也に言われて綱手は苦笑した。自来也は鹿爪らしい顔で綱手を見、腕を組んでふんぞり返る。

「波平といったか、波破の倅は」

「ああ、親父によく似た食えない男だよ」

「そうか、似とるのか・・・へえ・・・そう言えばお前、波破と仲が良かったの?・・・ふぅん。そうかよ、倅は波破似か・・・」

「おい、薄寒い顔で人を見るな。何を考えてる?」
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