第55章 ハプニング
ガタッ、と自分の足元から音がした。
決して僕が動いた訳ではない。
「そこに居るの?」
「…」
「大丈夫だから」
スッとその場にしゃがみ込み、波瑠と思われる縮こまり小さくなった身体を抱く。
「ッ…」
僕の腕の中の身体はビクリ、と大きく跳ねた。
「僕はどこにも行かない」
ここに居る、ということを伝える為手に込める力を強くする。
「…ありがと…」
掠れたような、とても弱々しい声が聞こえた。
注意していなければ聞き逃してしまいそうになる程、か細い声。
普段の波瑠からは絶対に想像出来ないようなものだ。
「大丈夫だから」
抱きしめる腕はそのままに、頭を撫でる。
落ち着かせるようにそっと、優しく。
「ごめんね…弱っちくて…」
「そんなこと言わなくて良いよ。
弱いところがあっても別に良いでしょ」
いつもより高い波瑠の体温を感じながら、波瑠が落ち着くまで待つ。