第55章 ハプニング
靴を持ち、外へと続く扉を開ける。
すると、鼻につく匂いを感じた。
なんとも言えない、この独特な香りは。
「「雨、だね」」
そう、雨の香りだ。
数歩先には右から左へと横降りの雨。
風の影響もあり、屋根の下に居ても濡れる。
「…強くなる前に行くか。
蛍は待ってて。
選手が風邪ひいたら大変だから」
「あのねぇ」
「大丈夫。
こんな天気に外をうろつく人は早々居ないでしょ」
「それはそうだけど」
「じゃあ、行って来…ッ」
「待ちなよ」
出て行こうとすると、右の腕を掴まれた。
その手から逃れようと動けば動く程、掴む力はどんどん強まっていく。
「蛍?」
「…い………よ…」
「え?」
よく聞こえなかった。
「だから、心配だって言ってるんだよ!
分からず屋が!」
不意に上げられた声に、肩がビクリと跳ねる。
「いつも君は1人でなんとかしようとして、弱音とかも言わないし頼らないしで…。
僕は君の傍に居る意味あるの?」