第37章 誘惑
「急ぎじゃないなら今やる必要ないよね?」
「そうだけど…」
無言のまま見つめられる。
「…じゃあ蛍も手伝って」
「僕も?」
「それなら早く終わるから」
「はぁ…」
やっぱりそれは嫌だよね。
好んで仕事する人なんて珍しいし。
「どれやれば良いの?」
「え?」
「何、その顔」
「やってくれるの?」
「やって欲しいって言ったのそっちでしょ」
「そうだね、ごめん。
じゃあこれを計算して平均値を出して貰って良い?
少数第2位から四捨五入して」
「分かった」
資料を受け取ると、互いに机に向かった。
誰かと共にやると効率が良い、ということを改めて認識した。
私の方は割と早く終わったけど、集中している蛍の邪魔はしたくない。
音を立てないように席を立ち、お茶を注ぎに行く。
「お疲れ様」
静かにペンを置いた蛍の前にコップをソッと置く。
「あ、どうも」