第57章 Epilogue-それは世界で一番の-
ふう、と息を吐き、隊首羽織に描かれた零の文字に触れる。
「みんな…どうか見守っていて」
絶望に負けないように───。
梨央は隊首羽織を風呂敷で包むと、小走りで店に戻った。
祝宴はぐずぐずに酔い潰れた者が出始めたものの、二人にとっては生涯忘れられない思い出になったのだった。
◇◆◇
あれから十年の月日が流れた。
季節は夏に突入し、新居に移り住んだ梨央は朝から忙しなく働いていた。
「朝食はこれで完成…と」
チラリと壁に掛けられた時計を見て時刻を確認する。
「わっ…もうこんな時間」
エプロンを外して隣の部屋を覗く。
「夢愛、ご飯にするからそろそろ片付けて」
「はーい!」
積み木で遊んでいる女の子がいる。
銀色の髪をツインテールで結び、青い目をしている。
名は…日番谷 夢愛(めい)───。
梨央と日番谷の娘だ。
ガチャッ
「おはよう」
「おはようございます」
死覇装に着替えた日番谷が起きてきた。
「パパ見て!積み木でおしろ作った!」
「積み木?」
「ほらこれだよ!」
手を引っ張って作ったお城を日番谷に自慢する。
「おお、すげぇ上手に積んだな」
「あとで写真とってもいい?」
「メシ食い終わってからな」
「うん!」
愛らしい笑顔で頷いた夢愛は日番谷に抱き上げてもらって椅子に座った。
「いいにおいがするー!」
「残さず食べてね」
「デザートもある?」
「夢愛の好きなヨーグルトだよ」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶ夢愛につい笑みが溢れる。
「さて…食べようか」
「いただきまーす!」
両手を合わせた夢愛は片手でフォークを握る。
「今日はふたりともお仕事?」
「うん。夢愛のお迎えはパパが行ってくれるよ」
「ねぇパパ、帰りに甘いもの食べて帰りたい」
「夜ご飯入んなくなるぞ」
「大丈夫!デザートは別腹だから!」
「どっかの誰かさんも同じこと言ってたな」
ギクッと肩を揺らす梨央。
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