第6章 書類配りIV
「蒼ちゃんが悲しむよ───!!!」
「っ………」
その瞬間、流歌の動きが止まり、狂喜に染まる顔も消えた。
「このままその人を殺しちゃったら蒼ちゃんが悲しむ!!蒼ちゃんの悲しむ姿を見ることになってもいいの!?」
「あお…い…?」
「何の為に生きてるの…ッ!!」
その言葉に流歌は大きく目を見開いた。虚だった眼に本来の青さが宿る。そして…流歌は自我を取り戻した。
「みぞれ…?」
「!…戻ったああぁ…っ」
泣いている霙を見て困惑する流歌。
「あれ…何で…」
自分でも理解出来ていない状況に怖くなって誰かに馬乗りになっていることに気付く。
「あっ…。ああぁ…っ」
そして自我を取り戻すまでの記憶を思い出し、全てが恐怖に染まった。流歌は慌てて男の上から身体を退かす。
「ごほっ!」
そこで男は奇跡的に意識を取り戻す。
「しっかりしろ!」
「おい…逃げようぜ!」
「やべてよコイツ!!」
男達は倉庫を飛び出して行った。
「私…なんてことを…。違う…殺そうなんて…あいつらが悪いんだ…私の大事なものを奪おうとするから…だから…」
「梨央ちゃん…」
「彼まで何かあれば私は…」
「梨央ちゃん!!」
「っ!」
「大丈夫…?」
「あ…あぁ…平気…」
そして流歌は申し訳なさそうに顔を歪めた。
「ごめん」
「ごめんじゃないよ…」
「本当にごめん」
「梨央ちゃんのバカ…!!」
「…反省してる」
「霙が来なかったら本当にあの人を殺してたんだよ!?そしたら蒼ちゃんが悲しむでしょ!!さっきの梨央ちゃん怖かったんだから…!!」
「うん…ごめんね…」
「本当にもう!!」
ここまで本気で怒る霙は珍しい。だけどその怒りは全部流歌の為。霙は知っているのだ。彼女に何かあれば一番悲しむのは兄である蒼生だと。だから霙は怒るのだ。
「お願いだから…簡単に“堕ちないで”」
「!」
「蒼ちゃんを傷付けないで…」
「霙…」
「お願い…だから…」
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