第51章 Historia-そして物語は完結する。-
蒼月にある屋敷に戻ると誰かが待っていた。
「聡明…」
「きっと此方だと思いました」
「…知ってたのか」
彼は全てを知っているのだと悟った。それでも聡明は梨央を叱るわけでもなく、ただいつものように温厚な笑みを浮かべている。
「父親というものは子供の変化に気付くものなんです」
「母様といいキミといい…凄いな」
「何も凄くありませんよ。子を持つ親ならば当たり前のことです」
「そっか…」
梨央は嬉しげに笑う。
「キミは…母様が死んだ時、どんな気持ちだった?」
「!」
「どうして…母様のいる世界を望まなかった?」
「罪禍がそれを望まないからです」
「!」
「彼女が死んだと知った時、私の中で激しく何かがおかしくなっていく気がしたんです」
「……………」
「きっと色んな感情が混ざり合って、どうしていいのか分からなかったんだと思います。でも…自分でも驚くぐらい泣いてました」
「!」
「心が張り裂けそうな痛みで涙がどんどん溢れて…次の日には目が真っ赤に腫れてました」
「そうだったのか…」
「私は罪禍を愛しています。あんな素敵な女性と巡り合えた私はとても幸せ者です」
「突然惚気たな」
「だからですかね…彼女が望まないことはしないと決めたんです」
「!」
「この世界にはもう彼女はいない。それでも私は彼女が生きたこの世界を生きようと思ったんです」
「キミは強いな。私なら蒼生のいない世界で生きるのは無理だ。きっと泣いてしまう」
「……………」
「だからきっとこれでよかったんだ」
梨央は笑みを浮かべる。
「とても楽しい人生だった。これで心置きなく消えることができる」
「では…コレを渡しておきます」
「石?」
それは青と銀が混ざったような色の石だった。
「良ければ持って行って下さい」
「ありがとう」
そして体が消え始める。
「梨央」
「!」
「君と蒼生が生まれてきてくれて嬉しかったよ」
その言葉に驚いたが嬉しそうな顔で笑い、涙を流すと…彼女は世界から消えた──。
next…
[千年血戦編•訣別譚:完結]
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