第51章 Historia-そして物語は完結する。-
滅却師によって崩壊した尸魂界は酷い有様だった。瓦礫がそこらじゅうに散乱し、壁や地面には生々しい血の跡が残されている。
「…せっかく植えたのにな」
やちると共に植えた花壇は壊され、日に日に育っていた花達は根本から折れ、泥が付いたまま、可哀想な姿で地面に落ちていた。
「幸福花もぐしゃぐしゃだ」
毎日欠かさず水やりをしていたやちるの気持ちを考えると胸が痛くなる。種を植えてから芽が出るのに何日掛かるのか、蕾から花が開くまで何日掛かるのか、その大変さも知らないのに無断で花壇を荒らしていった。
「…愛情かけて育てたのにね」
落ちている花を拾い上げ、語りかける。その時、ぐらりと視界が揺れて思わずバランスを崩しそうになった。
「うっ……」
手で目元を押さえ、気持ち悪さに堪える。苦しげな表情のまま、手に持っている花を見た。
「?……あれ?」
花をじっと見つめる。
「何で…花なんか持ってるんだろ?」
記憶が徐々に失われていく中、やちると共に植えた花の事さえ、忘れてしまった梨央。
「ダメだ…思い出せない」
考えるのも煩わしくなり、その花をひらりと地面に落とす。まだモヤモヤした気持ちが心の中に渦巻くが、ふと空を見上げる。
「青空…見えないな」
静かに呟いて、気づいた。
「あぁ…死ぬのか──私。」
ツゥー…と瞳から涙が溢れる。
「っ…どうして泣くの?」
頬を伝う温かな涙がポタリと地面を濡らす。泣いてしまった理由がすぐに分かった。
「そっか…消えたくないんだ」
自分で口にして驚く。
「消え…たくない…」
思わず本音が溢れた。
「───梨央!!」
「!!」
後悔はなかった
罪を犯すことに
何の罪悪感も感じなかった
だから迷わず『悪』との取り引きに応じたし
蒼生の為にも母様の仇を討たなきゃと思った
例え代償を払うことになっても
彼さえ幸せに生きていけるなら
私が消えることになっても
構わないと思っていた
でもそれは────
“愛を知らずにいた頃”の話だ───
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