第51章 Historia-そして物語は完結する。-
体の支えを失い、ハッシュヴァルトは地面に仰向けで倒れる。
「…何だ…その…顔は…。…悔しいと思うか…私が…陛下に…力を…奪われて…。…逆だ。陛下が…お前から…力をお奪いにならなかった事を…誇らしく思う…。私から…力をお奪いになった事を…誇らしく思う…」
筒抜けになっている天井に向け、手を伸ばす。
「私だけが…陛下のお役に立てるのだから…」
「………そうか……」
傷だらけの体からは血が流れ落ちる。
それでも何とか立ち上がり、雨竜は歩き出す。
「…待て…石田…雨竜…。
…お前の傷を…私に…移して行け…」
「!?」
「私は…じきに死ぬ…傷があろうと…無かろうと…それは変わらない…」
「何を…言っているんだ…」
「…どうした…憐みか…?先刻までは私を殺すつもりで戦っていた筈だろう…」
「…しかし…!」
「…何を…迷う…全てを…秤にかけろと言った筈だ…。秤にかける事もできず…迷いに追われて決めた事は…全て後悔になるからだ…。…ならばそれも…秤にかけろ…石田雨竜…。お前は…友を助けに行くべきだ…」
雨竜は目を見開き、驚いた。
そしてハッシュヴァルトに自身の傷を移し、その場から離れる。雨竜はただ前だけを見て歩く。
その時、雨竜の目の前に光の粒が集まり、それはやがて人の姿<少女>を維持した。
少女はゆっくりと歩を進める。どこか重い表情を浮かべる雨竜の眼には何も見えていない。
足音だけを響かせ、雨竜は光に包まれた少女の横を通り過ぎた。
「……………」
少女は後ろを振り向き、雨竜を見る。
そして微笑んだ。
「“彼を救ってくれてありがとう”」
「!!」
声がして、雨竜は後ろを振り返る。
だが、そこには誰もいない。
「…今のは?」
確かに声が聞こえた。その声の持ち主はわからない。ただそこに残ってるのは雪のようにキラキラと舞う光だけだった。
「(笑っていた気がする。)」
“そんな気がしただけだ”
『彼を救ってくれてありがとう』
「もしかして…」
その言葉の裏に隠された真意に気付いたのか、雨竜は小さく笑んで前を向き直すと、再び歩き出した。
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