第5章 書類配りIII
零番隊隊長 仁科梨央
十二番隊隊長 涅マユリ
この世で最も相性の合わない二人である。
「ああ!!もう腹立つ!!こんな奴に敬語を使うなんて馬鹿げてる!!」
「ハァ……」
「溜息したいのはこっちですよ!!」
「分かったからそうデカい声で叫ぶな。隊長もいい加減こいつから書類受け取ってください」
牙を剥き出しに怒る流歌を宥めながら阿近は呆れるように言った。
「その男に時間を割いてる暇はないヨ。こっちは忙しい。見て分からないのかネ?」
「書類を届けに来ただけだっつーの」
苛々しながら腕を組む。
「…ネム、書類を持って来い」
「はい、マユリ様」
綺麗な女性がこちらに向かって歩いて来る。
「お預かりします」
書類を受け取るとネムは涅の元に向かった。
「阿近さん、彼女は?」
「うちの副隊長だ」
「へえー、美人さん」
「名前は涅ネム」
「は?涅…?」
「隊長の話によれば何でも義骸技術と義魂技術の粋を集結させて作り上げた───娘だそうだ」
「!?」
阿近の言葉に驚いてネムを見る。
「…まるで生きてるみたい」
そして書類に目を通していた涅がチラリと流歌に視線を向けた。
「私の実験台(モルモット)は実に良く働くネ」
「誰がモルモットだ…」
「君に決まってるじゃないか。非常に扱い易くて助かってるヨ。ただ…たまに役に立たんがネ」
「…ぶっ殺すぞ」
「相変わらず物騒な言葉だネ。これだから“前科持ち”は嫌いだヨ」
「そっちこそ相変わらず横柄で傲慢な態度が目立ちますね。その性格、直した方がいいと思いますよ」
「君こそ格下に対する口の利き方と自分勝手な行動は直した方が良いと思うがネ。そのせいで仲間をバラバラにさせたんだろう」
「っ………」
ギュッと拳を握り締める。
「全く…君は聖女にでもなったつもりかネ?自分を犠牲にして誰かを救っても何の意味も無いヨ。結局君は彼らを助ける事が出来なかったのだからネ」
「!!」
「隊長。」
ギリッと歯を噛み締め、今にでも食って掛かりそうな流歌を見た阿近は咄嗟に涅の名を呼んだ。
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