第49章 Divortium-君のための嘘-
箱庭世界と称された空間。
綺麗に咲いていた花々は攻撃の被害で花壇の外に吹き飛ばされ、鳥籠状に造られた天井も硝子が破れて空が剥き出しになっている。
「おい、死んだか?」
息一つ乱していない伏見は、剣を手にしたまま倒れている少女に近付き、見下ろす。
「このぐらいじゃ死なねーの分かってんだよ。おら、とっとと起きて戦え」
その言葉に応えるように気を失っていた少女の手がピクリと動く。そして苦しげに表情を歪め、伏見に言った。
「…こんな…戦いは無意味だ…」
「何が無意味だよ?テメェは俺と戦うのが無意味だって言いてえのか?」
「誰も救われない…誰も報われない」
「…何?」
「人は簡単に堕ちちゃいけないんだ」
「堕ちる?地獄にか?ハッ、だったら俺がお前を地獄に送ってやるよ」
「地獄には落ちない。“私”は彼女の最後を見届ける責務がある。落ちるならそれからだ」
「テメェはどうせただの『保険』だろ。まずはテメェを殺して梨央の強さを“半分”もらう」
「!」
「その為に此処に来たんだからな。お前を殺した後は千歳、千歳を殺した後は蒼生、そして最後に梨央だ。あいつらの強さを手に入れれば俺はもっと強くなれる」
「“幼馴染”を殺せるの?」
「!」
「その剣でキミはあの子達を傷付けるの?」
「その“幼馴染”っての…やめろよ。いつまでも餓鬼じゃねえんだ。“そんなの”に囚われてたまるか」
「(一瞬、言葉が強くなった…)」
「立てよ、まだやれんだろ。本気を出してねえテメェがこんなに簡単に終わるはずねえからな」
「…随分と私の力を買ってもらえるんだな」
よろめきながら立ち上がる。
「伏見、考え直せ。キミの生き方は間違ってる。誰かを傷付ける強さは本当の強さとは呼べない。キミが強さを求めた理由は他にあるんじゃないのか?」
「ねえよ。」
少女の言葉に苛立ちながら否定した。
「…キミは変わったな」
「俺は何も変わっちゃいねえよ。ガキの頃を夢見てんならとっとと目を覚ませ。俺達はあの頃よりも別々の道を歩んでんだよ」
「いや、変わったさ。あの悲劇を境に…ね。そのせいでキミ達の運命は大きく変わった」
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