第4章 書類配りII
「急に霊圧上げたら驚きますよ」
「…何故怒らない」
「何故と訊かれても…」
「本来の兄の性格からして考えられぬ。差別するかのような言葉で罵られ、何度殴られても平然としている」
「……………」
「あんな仕打ちを受ければ誰だって怒りを覚えるにも関わらず、兄の態度は変わらない。あの短気な兄がだ」
「本来の私なら…ですか」
「本当は二重人格者ではないかと疑う程、性格が豹変する口の悪い兄が、キレないのはおかしいであろう?」
「隊長、さり気なく悪口言ってます?」
「それに…先程の恋次とのやり取り、わざと兄が恋次を挑発しているようにも見えた」
「別に挑発なんてしてませんよ」
「腹は立たないのか?」
「そりゃ立ちっぱなしです。本来の私なら容赦なく言葉で相手を制圧してます。少し霊圧をぶつければ大体は大人しくなりますからね」
「……………」
「キレると口が悪くなるのも、気が短いのも理解してます。でも“これ”じゃないと困るんですよ」
「?」
「“神崎流歌”を演じていれば仲間が巻き込まれる心配はない。“僕”と彼らには何の繋がりもないので親しい間柄だと思われないんです」
まァ…あの二人が手助けしたから
他人じゃないことは避けられないだろうな
「本来の私だと何を仕出かすか分からない。鎖が無い今の私は牙を剥きます。だから仲間に何かあれば…私は絶対に許さない」
ギラリと青の瞳が鋭く光る。
「傷付くのは私だけで十分です」
その言葉に白哉は表情を変えず、渡された書類に判を押す。
「兄は昔から得意だったな」
「何がです?」
「“自分を犠牲にすること”だ」
流歌は目を見開いて驚いた。
白哉の言葉で思い出したのは“ある男”の言葉だった。
『てめぇの“それ”はただの自己満足でしかねえ』
『誰かを救ったっつー達成感が欲しいんだ』
『くだらねぇ奴のくだらねぇ命を救ったヒーローにでもなりてぇんだろ?』
『てめぇは自己犠牲が大好きだからなァ』
『この俺が反吐が出ちまうくらいな!』
『ただ…言っておくぜ』
『てめぇの“それ”は必ず誰かを傷つける』
『よく覚えとけよ』
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