第42章 Tandem-最期の言葉-
“思い出”を見終わった途端、周囲の空間がぐにゃりと歪み、元の洞窟に戻った。
「………………」
梨央は悲しい顔を浮かべたまま、しばらくの間、その場から動けなかった。
ポタリ…と嫌な汗が地面に落ちる。
「(早く此処から出ないと…)」
そう思うのに動けない。
「あるじ…?」
ハッとして顔を上げる。か細い声に振り返れば、そこには青い髪の子供が立っていた。
「壬!」
「あるじ…!」
名前を呼ばれた瞬間、壬は泣き出し、梨央の元へと駆け出す。両手を広げ、飛び込んできた小さな身体をギュッと抱きしめた。
「うわあああん!」
「良かった…無事に見つかって…」
ホッと安堵する。
「ごめんなさいあるじ…っ」
「怖かったな。もう大丈夫だ」
ポンポンと優しく背中を叩き、壬を落ち着かせる。
「苦しくないか?」
「だいじょうぶ…」
「丙はどうした?」
「あのね…逃げてる途中で手を離しちゃったの…」
「そうか」
えぐえぐと泣いている壬の頭を撫でる。
「痛いところは?」
「…ころんだ」
「どこ?」
「ここ…すりむけたの…」
ベソをかきながら肘を見せてくれる。
「少し血が出てるな」
「ヒリヒリする…」
「菌が入ってないといいんだが…」
肘に手を翳すと青白い光が輝き、怪我した箇所が治り始める。壬はそれを見ていつも“魔法だ!”と感動する。
「後で一応消毒するよ」
「うん!」
「さて…丙を探すか」
歩き疲れた壬を抱き上げる。
「息が苦しくなったら我慢せずに報告すること。いいね?」
「らじゃー!」
「壬、変なものを見なかったか?」
「変なもの?」
「例えば洞窟が違う場所になったり…」
「ううん、なってないよ」
「そうか」
「あるじは見たの?変なもの」
「あぁ…さっきまでな」
「だからそんなに顔色が悪いの?」
「!」
「顔がすごーく青いよ?」
「…大丈夫。心配はいらない」
安心させるように微笑んでみせる。
「丙を見つけて一刻も早く此処から出るぞ」
「おー!」
next…