第4章 書類配りII
詩調の強烈な霊圧を感知して執務室から出て来た男は涼しげな表情を浮かべている。
「…藍染。」
数百年ぶりに見た男は、昔と変わらず、“善人顔”で生きていた。
「…そうか…キミも…」
五番隊隊長 藍染惣右介───。
「君は神崎君だね?執務室に来なさい。
書類を届けに来たんだろう?」
知ってか知らぬ振りを続けているのか、まるで初対面であるかのような振る舞いで流歌に言う。
「藍染隊長危険です!!」
「安心しなさい雛森君。もしもの時は彼と刺し違えてでも刃を交えるつもりだ」
その言葉にイラッとした詩調が眉間を寄せ、忌々しそうに藍染を見る。
「藍染…!」
「こら一色十二席!隊長を呼び捨てにしない!!口を慎みなさい!!」
「口を慎め?はっ!笑わせないでよ」
「何ですって?」
「あたしはこんな男を隊長とは認めない。仲間を利用して捨てるコイツに命まで預けてるあんた達を見てると反吐が出る」
「仲間を利用して捨てる?何言ってんだお前。隊長はそんな人じゃねぇよ」
「本当に呆れるわ。その男は涼しい顔をしてるけど裏の顔は残酷よ。自分の為ならどんな最低なことだって平気でやる奴だもの」
「てめぇいい加減にしろよ!」
「藍染、あんただけは絶対に許さない。あたし達から大切な人を奪った代償は必ず払ってもらうわよ」
“それに…”と詩調は言葉を促す。
「あたしが慕うのはこの世でただ一人よ」
詩調は流歌を見る。
「君達は持ち場に戻って仕事を再開するように」
そう言うと藍染は先に執務室に入った。
「…そろそろ離してくれませんか」
ずっと掴んだままの男に言えば
小さく舌打ちをして離れた。
「貴方を一生許さないから」
それだけ言い残し、雛森は仕事に戻った。執務室に向かおうとすれば悲しい顔を浮かべた詩調が顔を俯かせている。
「ごめんなさい…」
この先、どんな仕打ちを受けても一切の手助けはしない。その約束を破ってしまった詩調は申し掛けなさそうに謝る。
目を瞑って小さく笑んだ流歌は詩調の肩に手を置くと、執務室に入って行った。
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