第42章 Tandem-最期の言葉-
彼女は一度頭の中を整理する為、深呼吸をした。冷静に考えれば、本当に不可能だ。死んだ者を生き返らせるなどあり得ない。そう…絶対にあり得ないのだ。
《何故お前が此処に来られたかは知らないが、私にしてみれば好都合。お前が“器”になれば、私はお前の中に棲むことができる。》
まさに悪魔の囁きだった。
《お互いにとって“ギブ・アンド・テイク”。……そうだろう?》
また、ニヤリと嗤った気がした。
『ふぅ……』
梨央は深く息を吐く。
『一応聞くが…仮にお前との取り引きに応じた場合、“この身体はいつまで保つ”?』
《!…へぇ、お前は理解が早いなァ。》
彼女は表情を変えず、じっと一点を見ている。
《モチロン…“望み”を叶えた時。そうすればお前の身体は世界の理から外れ、跡形も無く消える。》
『なるほどな。生き返らせてやる代わりにお前を私の中に棲まわせる。そして望みが叶った時、私の存在は世界から消える。…そういうことだろ?』
《お前は他の器達と違って呑み込みが早くて説明の手間が省けるよ。つまりはそういうことだ。》
『……………』
《さぁ、どうする?》
《望みを叶えてやる代わりに私をお前の中に棲まわせるか、それとも取り引きには応じず、此処で存在が消滅するのを永遠に待ち続けるか。“選択”はお前に任せるよ。》
『(普通に考えて取り引きに応じないのがきっと“正解”だ…。でも…)』
そこで思い浮かぶのは大好きな兄の存在だった。迷いに迷った挙句、彼女が出した答えは…。
『本当に…望みを叶えてくれるのか?』
《あァ、もちろん。》
『……………』
苦渋の決断だった。
『その取り引き、応じてやる。』
その途端、『悪』は思い通りになったと言わんばかりに嬉しそうに嗤う。
《後悔しないか?》
『何を今更…。それに不思議と罪を犯すという罪悪感すらないんだ。私は…狂ってるのかもしれないな』
自分で自分を嘲笑う。
《本当にイカれてるよ。でも…そういう奴、嫌いじゃないよ。》
“好かれても迷惑だよ”と口に出すのは面倒なので黙っておいた。
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