第42章 Tandem-最期の言葉-
《あの男は彼女の敵だ。彼女はあの男を憎むべきだ。本来なら彼女とあの男は敵対すべき間柄なのに…彼女は一体何を考えてるんだろうなァ。》
《あの男の正体に気付いてるのに、あの男を『希望』と呼ぶなんて…クククッ。》
《いつまで“友達ごっこ”を続ける気なんだろうなあ!》
《あの男も彼女の過去を知ったら、きっと自分を殺したくなるだろうな!だって彼はまだ、“あの日の事件”を知らないんだからさァ!!》
《あはははは!!》
「耳障りなんだよ、その煩わしい聲」
《!何だと?》
「キミは言ったな。彼が自分の正体に気付き、真実を知れば、きっと絶望すると」
《それがどうした?》
「ふっ」
思わず笑ってしまう。
「本当にキミは彼のことを何も理解してない」
《………………》
「彼は一度、深い絶望を経験している。偽りの過去を植え付けられた仲間が一瞬にして自分の敵になった。さぞかしショックが大きかっただろうな。目の前から光が消えて心も折れた。だが彼は立ち直った。仲間の力と支えによって」
《仲間だと…?》
「仲間の存在は強い。共に剣を取り、共に戦い、共に助け合う存在だ。立ち止まれば仲間が背中を押し、挫けそうになったら前に進む勇気をくれる」
《そんなもの…》
「まぁ…友達も仲間もいない独りぼっちのキミに言っても、全然理解できないと思うがな」
《うるさいんだよ…何なんだよお前。お前なんて彼女の暴走を止める為に生まれただけの存在の癖に!!“偽物”が偉そうなこと言うな!!》
「確かに私はあの日から何かがおかしくなってしまった彼女の暴走を止める為だけに生まれた存在だ。私は『保険』だからな」
《そうだ。お前は『保険』だ。お前には何の力もない。戦う力も守る力も。ただ彼女の力の制御が不能な時以外、何の役にも立たないんだよ!お前という“ちっぽけな存在”は…!!》
「ちっぽけでもいい。それで彼女の暴走を止めることが出来て、彼女の愛する人達が傷付かないなら役立たずでも構わない」
《…お前も大概イカれてるよ。》
「褒め言葉として受け取っておこう」
『悪』はげんなりと顔を歪めた。
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