第42章 Tandem-最期の言葉-
「キミが現れなければ彼女は罪を犯す事を踏みとどまっていたかも知れない。それをキミが甘い言葉で彼女を唆したんだ」
《唆したァ?あはは!!違うなあ!!》
可笑しそうに笑い声を上げ、下品な聲でケラケラと嗤う『悪』を何の感情も宿さない瞳で睨み続ける。
《“キミが現れなければ”?何言ってんだよ。彼女が泣いてるから可哀想だと思ったんだ。むしろ私は“彼女の思いに呼び寄せられた”んだよ!》
嗤っている聲なのに苛立ちを含んでいた。
《彼女があんな目に遭うから私と出会う羽目になったんだ!暗闇の中で彼女の泣き声が聞こえたから手を差し伸べてやったんだ!》
「……………」
《私は取引の前に彼女に言ったんだよ。“後悔しないか”って。そしたら彼女、何て言ったと思う?くくく…とても面白い事を言ったんだ!》
「…………….」
《“罪を犯すという罪悪感もない”って、平然とした顔で笑ってたんだよ!!》
ケラケラと爆笑しながら可笑しそうに告げる。そんな『悪』とは逆に“片割れ”は無表情でずっと同じ一点を睨みつけている。
《だから取引を持ちかけたんだ。彼女は私の提示した条件を快く受け入れてくれた。だから代わりに『望み』を叶える約束をしたんだ!》
《彼女は取引を持ちかけた時点で、罪を犯す事を決めていた。たった一つの望みの為に何もかも手放したんだ!あはは!ほんっと馬鹿だよなァ!》
《あんな世界、壊れちゃうのにさあ!!今更どう頑張ったって何も変わらない!何も変えられやしないんだよ!あんな世界を守ったって…何の意味もないんだよ!!ククク…あはははは!!》
「…随分と独り言が大きいな」
《…何だと?》
「こんな奴があの子の中に居るなんて…考えただけでもゾッとする。いっそのこと…お前ごと消すってのも…アリだよな?」
突然雰囲気と口調が豹変した“片割れ”。怖い顔と冷たい眼をし、『悪』に向けて殺気を放つ。
《お前じゃ私を消すことは不可能だ。それと私が彼女の中にいることは“彼女自身が決めた”事だ。もし私ごと消すって言うなら…彼女の『望み』が叶う前に、彼女を道連れにして一緒に消滅してやる。》
本気とも捉えられる聲で言った。
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