第42章 Tandem-最期の言葉-
此処は現実とは無縁の異なる世界。屋敷から離れた場所に塔が聳え立つ。其処に彼女と同じ姿をした“片割れ”は椅子に座り、ネックレスに通された指輪を眺めている。
「………………」
どこか悲しげな瞳で指輪の内側に刻まれた文字を見つめ、そして呟いた。
「“Always with you.”」
ラテン語で刻まれた文字。その意味を知っている“片割れ”は悲しげにふと笑う。
「もう少しであの子の『望み』が叶う。そうすれば彼女の抱えてきた十字架が解放される」
小さなサファイアの宝石が太陽の光に反射されて輝きを増している。
「あの子は本当に身勝手だ。たった一つの望みを叶える為に、“あいつ”の取引に応じたのだから。まぁでも…決めたのは彼女だ。“私”が口出しする権利は無い」
ギュッと指輪を掌の中に包み込むように握る。そして目を瞑り、握り拳を額に押し当てた。
「ごめんね…“私達”を許さないで」
悲しい気持ちが心を満たし、眉を下げて辛そうに顔を歪める。そんな“片割れ”の耳に不気味な聲が響いた。
《本当は誰かに許してほしいと思ってるんじゃないのか?》
ピクリと反応し、辛そうな表情が一瞬で消え、無表情で掌を外すと警戒心を一気に溢れさせて目を開く。その瞳には冷たい色が宿っている。
「勝手に人の独り言を盗み聞くなんて感心しないな」
《此方のお前とも是非話をしたくてね。》
「キミが私と話し?冗談だろ」
《冗談に聞こえたなら謝ろう。だが、冗談じゃないぞ。私はお前と話したくてこの世界に干渉したのだ。》
「誰の許可を得て干渉している。此処はキミのような『悪』が来て良い場所ではないんだよ」
《だがお前は許可してくれた。だから私は今こうしてお前と会話が成立しているのだ。》
「キミも“一応”、私達の精神と繋がっているからな。追い出すにも追い出せなかっただけだ」
それを聞いた『悪』がニヤリと嗤った気がして、“片割れ”は苛立ちを浮かべる。
「私は…私達は…誰かに許してもらえる資格はない。それを承知で彼女は取引に応じたんだ───キミとの取引にな。」
《クックック…。》
“片割れ”は姿も分からない『悪』に向かって睨みを利かせる。その表情は怒りで歪んでいた。
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