第40章 Periculo-性格の不一致-
ずっと幸せだと思っていた
あの日が来るまでは───。
『母様がいない…』
『仕事に行ったんだろ』
『お休みだって言ってたもん』
『休みでも忙しいんだよ』
『今日は母様とお菓子を作る約束してるの!母様は約束を破ったりしない!』
ピアノの練習をしていた“彼”を部屋から無理やり連れ出し、朝から姿の見えない母を必死に探す。
『ぴえーると一緒に探してたんだけど…途中でどっか行っちゃったの…』
“ピエール”とは昔飼っていた黒猫だ。
『そういや夕凪家が最近、白猫を飼い始めたらしい。もしかしたらソイツのとこかもな』
『千歳、白猫さん飼ってるの!?わあ〜!見に行きたい!ね、後で一緒に遊びに行こ!』
『父さんとピアノの練習があるから行かない』
『その父様もお部屋に行ったらいなかったよ?二人ともどこに行っちゃったのかなー?』
『だから二人共ああ見えて忙しいんだよ。母さんは当主だし、父さんも母さんの補佐とかして色々忙しいんだから』
『むぅ…。絶対に遊びに行こうね!!』
『やだ。』
『!?』
ハッキリと素っ気なく言われ、ショックを受ける。体をふるふると震わせ、涙を浮かべると、“彼”はギョッと目を見張った。
『い…一緒に来てよぉぉ…どうして…ひっく…一緒に行ってくれないのぉ…───と一緒じゃなきゃイヤだもん…うぅ…』
『な、泣くなよ!』
『じゃあ私と一緒に母様を探して千歳の家に白猫さん見に行って…!』
『…お前、ほんと勘弁しろよ。俺がお前の涙に弱いの知ってるくせに…。この間の隠れんぼの時だって…』
我儘を言う私のお願いを“彼”はいつも叶えてくれる。我ながら卑怯だと思う。泣き落としでお願いを訊いてもらおうとするんだから。
『はぁ…わかったよ。一緒に母さん探して、千歳の家に一緒に白猫を見に行く。これでいいか?』
『うん!えへへ、ありがと!』
目に涙を溜めたまま、嬉しそうに喜ぶ私を見て、肩を竦める“彼”は呆れながらも笑う。
『大好き!』
『知ってる。ほら、探しに行くんだろ?』
そう言って、手を差し出される。
『うん!』
その手をギュッと握って、私達は母の捜索を再開した。
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