第39章 Spero-託された希望-
「さぁ、手を動かして」
両手を叩いて仕事を再開させる。
「雅はどうした?」
「紅茶が切れたから買いに行ったー」
「…そうか」
「サボんなよ」
「サボんないよ…多分」
「あ?」
「嘘嘘。真面目に仕事しまーす」
「…見てるからな」
「ストーカーだねお兄ちゃん☆」
「誰がストーカーだ。
それとお兄ちゃん言うな」
「仕事始める前に自室に行って来ていい?」
「早速サボりじゃねえか」
「違うよー。一週間前に提出された書類の期限が今日中なの忘れてて、部屋に置いて来ちゃったの」
「何処の隊だ?」
「…六番隊」
「お前それ…朽木隊長に冷たい眼で無言の圧力掛けられるパターンじゃねーか」
「びゃっくん怒ると怖いよ〜」
「そーなんだよね。よりにもよって六番隊…。これが総隊長宛とかなら笑って誤魔化すか再発行してもらえるのに…残念」
ガックリと肩を落とす。
「書類取りに戻るだけ。ね?」
「…仕方ねーな」
「さっすがお兄ちゃん♪」
「お兄ちゃん言うな。二回目だぞ」
「じゃあキミ達は仕事の続きを頼む」
椅子から立ち上がり、執務室を出た。
◇◆◇
「確かこの辺に…お、あった」
自室に戻った梨央は机の上に無造作に散らばっている雑誌やら書類の中から六番隊宛の報告書を見つけ、引っ張り出す。
「朽木隊長に何て言い訳しようかな…。あの人の場合、冗談通じないし困った」
苦し紛れの言い訳は通用しないことを知っている。だからこそ、頭を悩ませた。
「ま、適当に誤魔化すか」
深くは考えず、自室を出ようとして、等身大の鏡に自分の姿が写り、足を止める。
「………………」
鏡に近付き、自分の顔をジッと見つめ、そして眉を下げ、悲しい表情を浮かべる。
「もうすぐ…もうすぐで『望み』が叶う。だから…やっとキミを、幸せにしてあげられる」
死覇装の胸元を少しはだけさせると、不思議な紋章が胸に刻印されている。
「………………」
それを忌々しそうに睨みつけると、鏡から離れ、自室を出て行った…。
next…