第35章 Apricus-優しい恋-
中身を取り出して梨央は驚いたように目を見開いた。
「これ───……」
青い薔薇が特殊な液体で固められ、その薔薇の中にはキメ細かな緑色の小さな水晶の粒がたくさんあしらわれた、ガラス細工の美しい薔薇の髪飾りだった───。
「………………」
梨央は言葉を失って固まる。
その品物は以前、霙と出かけた際に立ち寄った店で売られていた物と同じ品物だった。
買おうかどうか迷っていた髪飾りだ。
「隊長は本当に心が読めるんですか」
「何でだよ」
日番谷は可笑しそうに笑う。
「どうして…私の欲しい物がわかったんですか。これ…ずっと気になってたんです」
「なんとなく…お前に似合う気がした。
それを付けたお前を見てみたいと思ったんだ」
泣きそうになるのを堪えて嬉しそうに笑う。
「どうしたんです、この髪飾り」
「今までの詫びの印…」
「え?」
「お前には冴島の件で色々と不快な思いをさせちまったからな」
「気にしなくていいって言ったのに」
日番谷は気まずそうに少し冷めてしまったビーフシチューをスプーンで掬って口の中に運ぶ。
「ありがとうございます。
とても嬉しいです。大切にしますね」
光に反射してガラス細工で出来た薔薇がキラキラと輝く。
「なぁ…それ、付けてみてくれないか?」
「今ですか?」
「きっとお前に似合う」
微笑する日番谷にドキッとしながらも青い薔薇の髪飾りを頭に挿した。
「どうでしょう…?」
「やっぱり俺の目に狂いはなかったな。
すげぇ似合ってる」
「あ…ありがとうございます…///」
単純だと思うかもしれない
それでもいいのだ
この人が私のことを思って選んでくれた
それだけで充分、嬉しいのだから
「突き返されたらどうしようかと思った」
「突き返されると思ったんですか?」
「お前にも好みがあるだろ」
「そんなことしませんよ」
「また食いに来ような」
「はい!」
幸せになりたいと願った
ずっと続けばいいと思った
でも…幸せになれないことを
私は知っている
「(嘘つきでごめんなさい…)」
next…