第35章 Apricus-優しい恋-
「隊長を傷付けてしまったらどうしようって…」
「!」
「それを考えると…怖いんです」
私が大事にしているものは
いつも自分の手で壊してしまう
護ろうとしても
結局は傷付けて悲しませるだけ
それが怖いのだ
大事なものを失うかもしれないという恐怖が
過去を越えた現在も…心を支配している─────。
「消えてしまったら…どうしようって…」
「消えねえよ」
「!」
「お前を残して消えたりしない」
「…信じますよ?」
「約束する」
『私はお前達を置いてどこにも行かない。
ずっと傍にいると約束しよう』
「約束してください。その約束を…ちゃんと守ってください。あなたまでいなくなってしまったら…私は悲しいです」
一瞬だけ脳裏を過ったのは、一人の女性の姿だった。
「お前だってどこにも行くなよ。
俺を置いてどこにも行くな」
その言葉に何も答えず、ただ悲しい笑みを浮かべる。
あなたは どこにも行かないで
私の前から消えたりしないで
最期の言葉を残して
私を置いて
いなくなったりしないで───……
「それに言ったはずだぜ。俺の傍にいてほしいって。お前が傍にいなきゃ俺は寂しい」
「私も寂しいです」
隊長は約束してくれた
私を置いてどこにも行かないって
ずっと私の傍にいてくれるって
ちゃんと約束してくれたんだ
よかった
彼が一緒にいてくれる
これでもう…
あの時のような思いはしなくて済む───……
「私を好きになってくれてありがとうございます、隊長」
少し泣きそうな顔で笑う。
日番谷も嬉しそうに笑って言葉を返す。
「俺の方こそ好きになってくれてありがとう、梨央」
改めて気持ちを伝え合って二人は笑い合う。
「っと…忘れるとこだった」
「?」
「お前に会ったら渡そうと思った」
日番谷は小さな箱を梨央に渡す。
「もしかして…プレゼントですか?」
「そのつもりだ」
「!」
「気に入るかはわかんねぇけどな」
「開けてもいいですか?」
「ああ」
ドキドキしながら蓋を開けた。
.