第34章 Carissimi-愛しい人-
「死ぬことが守ることだと思うな。死なずに守ることが誰かの命を救う事に繋がる。お前がそんな簡単に死ぬはずはないと分かってるが、お前はどこか危なっかしい」
「(“死ぬな”…か。)」
「約束してくれるか?」
「…わかりました」
「ありがとう」
日番谷は安堵の表情でお礼を言った。
「ところで…乱菊さんはどちらに?」
「書類届けに行ったまま戻って来ねぇ」
日番谷の眉間が寄る。
「ったくあいつは…減給だな」
「(減給は切ない…)」
何とも言えず、苦笑した。
「隊長、お願いがあるんですが…」
「お願い?」
「我儘を承知で言います」
どこか恥ずかしそうに梨央は言う。
「名前で呼んでもらえませんか」
「名前?」
「はい…“梨央”って…」
「!」
「あ、でも強制じゃないので無理にとは…」
「梨央」
「っ!」
名前を呼ばれ、少しくすぐったさを感じる。
「嬉しいです。
ありがとうございます」
照れる梨央に日番谷は…
「梨央」
「はい?」
「梨央」
「はい…」
どうやら悪戯心が宿ってしまった。
「隊長、わざとですね?」
「名前呼ばれると嬉しいんだろ?」
「そうですけど…そんなに呼ばれると流石に恥ずかしいです!」
「もっと呼んでやろうか?」
「…意地悪」
頬を膨らませる。
「そんなに意地悪するから私だって仕返ししますよ」
「!」
「“冬獅郎さん”」
「っ………」
照れる日番谷を見てニヤリと笑う。
「なんか…くすぐったいな」
「私もです」
「でもお前に名前を呼ばれるのは嬉しい」
「もっと呼びましょうか?」
「それは勘弁してくれ」
「ふふ」
紅潮する顔を片手で覆い、照れる日番谷に梨央は小さく笑った。
「良かったわね、梨央」
開いた窓の下に隠れるようにして乱菊は座っていた。
「どうか二人の幸せがこの先もずっと、続きますように───……」
乱菊は微笑を浮かべ、空を見上げた。
next…