第33章 Scelus-罪深き少女-
時計の針が辰の時刻を差す頃───……
ドカッ!
「一本!!高峰副隊長の勝ちです!!」
審判役の隊士が片手を挙げて試合終了を伝える。
「参りました…」
蒼生の竹刀に弾き飛ばされ、床に尻もちを付いた隊士は自分の敗北が決定すると悔しそうな表情を浮かべた。でもすぐに肩を竦めて笑うと立ち上がり、自分の手から放れた竹刀を拾い上げる。
「流石ですね高峰副隊長。
全く歯が立ちませんでした」
一礼する隊士に手を差し出す蒼生。
「お前も中々強かったぜ」
ニィッと笑う蒼生の手を隊士は握る。
「いやァ…まさか副隊長に稽古つけてもらえるなんて感激です!!あの絶妙な刀さばきも完璧で圧倒されました!!」
「おたくの隊長に頼まれちゃ断れねえからな。お前は太刀筋は良いがもう少し手首を器用に使えばもっと良くなると思うぞ」
「はい!!ありがとうございます!!」
更木に頼まれて(押し付けられて)十一番隊舎に赴いた蒼生は稽古中の隊士達を相手に練習試合を行なっていた。
憧れの存在である蒼生の試合を逃すまいと我先にと手を挙げて勝負に挑もうとする隊士達を順番に相手をする蒼生。
真剣に挑む隊士達だったが歯が立たずに惨敗してしまう。何十人を立て続けに相手にしている蒼生は息一つ乱れていなかった。
「それにしても今日の稽古試合は貴重です。零番隊の副官を務める高峰副隊長に手合わせしてもらえるなんて感激です!」
「大袈裟だろ」
「いやいや!!零番隊の皆様にお会いすることすら珍しいのに隊長の頼みで俺らの相手してくれる副隊長は心が広い!!更木隊長に感謝ですね!!」
「(頼みっつーか“押し付けられた”んだけどな…)」
相変わらず強引で人の話を聞かない元•上司であった更木は何かあれば蒼生に隊士達の稽古や、やちるのお守りを押し付けられる。それに対して若干面倒くさいと感じる蒼生だが零番隊の中では面倒見は良い方で更木に押し付けられた頼み事も断れないのだ。
「あっくん!!」
隊士達に囲まれていると可愛らしい声が聞こえた。
「やちる」
人混みを掻き分けてひょこっと姿を現したのはやちるだった。
「ねえねえ、あっくん」
彼女は愛嬌の良い笑顔で蒼生の死覇装を掴む。
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