第32章 エイユウ ト ワカレノヒ
「…やれやれ、鼠取りにもそろそろ飽きてきたのだがな」
「あの子ら殺した後は?」
「死体を町の外の見え易い場所へ吊るして王鍵の創生に執りかかる」
「良えやないですか。
それやったらあの子ら殺すんはボクがやります」
市丸が鏡花水月に触る。
「──ギン」
次の瞬間、藍染の胸を刃が貫く。
後ろ向きで鏡花水月に触れたままの市丸が伸縮する神鎗で藍染の胸を貫いたのだ。
「───鏡花水月の能力から逃れる唯一の方法は完全催眠の発動前から刀に触れておくこと。その一言を聞き出すのに何十年かかった事やら」
藍染は眉を顰めて訝しげに市丸を見る。
「護廷十三隊の誰一人それを知るもんはおらへんのにみんな藍染隊長を殺せる気ィでおるもんやから見とってはらはらしましたわ。藍染隊長を殺せるんはボクだけやのに」
「…知ってたさ。君の狙いなど知った上で私は君を連れていた…君が私の命をどう狙うかに興味があったからだ…だが残念だギン、君がこの程度で私を殺せると───」
「思うてません」
市丸は刀の刃を藍染に見せる。
「見えます?ここ欠けてんの」
刃にはひし形の穴が空いていた。
「今、藍染隊長ん中に置いてきました」
「…何…?」
「ボクの卍解の能力、昔お伝えしましたよね?すみません、あれ嘘言いました。言うたほど長く伸びません。言うたほど速く伸びません。ただ伸び縮みする時、一瞬だけ塵になります。そして“刀の内側”に細胞を溶かし崩す猛毒があります」
「!」
「…解ってもろたみたいですね。今胸を貫いてから刀に戻る時、一欠片だけ塵にせんと藍染隊長の心臓ん中に残してきたんです」
「…ギン…!」
「喋るんやったら早うした方がええですよ。まあ早うしても死ぬもんは死ぬんやけど」
藍染の胸に触れる。
「“死せ 神殺槍”」
「ギン…貴様…!!」
「胸に孔があいて死ぬんや、本望ですやろ」
藍染の中から崩玉を取り出した市丸は近くにいる梨央を脇の下に挟んで抱きかかえると、そのまま遠くに離れた。
崩玉を抜き取られた藍染はバランスを失い、倒れる。
「…ギン…」
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