第31章 ホウギョク ト ヒミツ
そうだ
この男は蛇だ
気に入った奴を丸呑みにする
邪悪な蛇──……
「そう言うたやないですか」
市丸の本心が嘘か真かは解らない。だがそれ以上に藍染が追求することはなかった。そして藍染は市丸から梨央に視線を移し、言った。
「彼等が本気で私から逃げられるとでも思っているのかい?」
「例えキミが彼等の後を追い、殺そうとしても私がそれを止める。鼠はキミだ藍染。その鼠を私が駆除してやる」
「君では私を殺せない」
「随分と自信満々に断言するんだな」
「君の戦闘能力は死神随一だ。加えて身体能力も並外れている。だが君は過去に一度、私に敗北している」
「!」
「君は百年前、私の策略に見事に嵌り、監獄に収監されたのだよ。君ほどの頭脳でもあの時ばかりは私が仕掛けた罠に気付かなかった」
「……………」
「私の頭脳を使い、君を再び罠に嵌める事は難しい事じゃない。況してや──君を殺す為に必要な“材料”は幾らでも転がっているのだから」
一瞬、心臓が凍りついた。
藍染が言った言葉の意味を考える。彼女の脳裏を過ったのは“大切な人達の姿”だった。
「卑怯者…ッ」
ギロリと鋭い眼光で藍染を睨みつける。彼は今にでも斬りかかって来そうな梨央の瞳を見てふと思い出す。
「一つ聞きたい」
「!」
「君に似た少女を塔の中で見かけた。アレは誰だ?」
「っ!?」
すると梨央は酷く驚いた様子だった。
「…何でキミがその存在を知ってる」
ぐんっと霊圧が上昇し、藍染と市丸は僅かに眉を顰め、身体にのしかかる重さに息苦しさを覚える。
「気付いたら彼処にいた」
「(何でこの男があの世界に…)」
「だが指輪に触れる寸前で彼女の怒りに触れ、意識が遠退いた」
「指輪に触れようとした…?」
ザワッ
「「!!」」
凄まじい殺気がビリビリと襲う。
「いいかよく聞け。もうその話はするな。そしてもし指輪に触れていたら…“私”がキミを殺してるところだ」
周囲の空気が急激に低下した。
「…それとも今すぐにでも殺してやろうか」
ドスの効いた低い声に二人は何か恐ろしいものを感じ取った。
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