第25章 フリコ ト カコ
【百十年前】
「遅刻とは感心せんの」
「だって起きられなかったんですもん」
「…反省しておらんな」
「してますよぉ」
肩まである緑髪に青い眼をした少女は気の抜けた返事をしてへらっと笑う。
その様子に山本は呆れたように肩を竦める。
「…“報告書”じゃ」
小さな溜息を吐いて山本は引き出しに保管していた“特別報告書”と記載された紙を少女に手渡す。
「あれから何年経ってると思ってんですか」
「漸く四十六室の意見が全員まとまってな」
「まとまるの遅すぎますよ」
山本から受け取った報告書に目を通す。
「私の思惑通りに事が進んで奴らはさぞかし悔しそうな顔をしていたでしょうな」
「屈辱的な表情をしておったよ」
「はは、いい気味です」
「相変わらずおぬしを批難しておった」
「あの連中は私を毛嫌いしてますからね」
山本との会話を交えながら報告書を最後まで読む。
「ああ…本当に全員一致で可決されて良かった」
「その判決で納得したかの?」
「ええ、もちろんです」
少女はニコッと笑う。
「随分と嬉しそうじゃな」
「私が求めていた結論でしたので」
「そうか」
「これでやっと…」
小さく呟かれたその言葉は聞き取ることができなかったが、少女はニヤリと笑い、手に持っていた報告書をぐしゃりと握り潰した。
「さてと…六番隊に書類を届けに行きますのでこれで失礼します」
「六番隊隊長なら今日は非番じゃ」
「そうでしたか」
「ちゃんと仕事しておるようじゃな」
「当たり前じゃないですか」
「てっきりサボってるのかと思っておった」
「失礼ですよ総隊長」
「すまんすまん」
「サボるとみんなが煩いので」
「鬼の監視は厳しいからのぉ」
「いえ、鬼の方ではなくて…」
“うちの三席が”と梨央は思った。
「ともあれ、仲良くやってるようで安心じゃ」
「最初の頃に比べたら、ですけどね」
「零番隊は固い絆で結ばれておる。それに亀裂が入らない限りはお主達が離れ離れになることはないだろう」
「…縁起でもないこと言わないでくださいよ」
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