第2章 悪夢のはじまり
「詳しい話は聞いてないんスけど…冴島桃香に告白されたんスよね?」
「あぁ。だが丁重にお断りしたよ。ま、そのおかげもあって奴の本性を引き出せたんだが」
「フラれた腹いせに強姦されたように見せかけて自分から刺されにいったってことだー」
「オイそれ何杯目…」
「もぐもぐ。」
「……………。」
炊飯器を見ると全て空になっていた。
「まさか彼女があんな手段に出るとは思わなかった。おかげで油断したよ」
洗い落として既に消えているというのに、血が付いていた掌を見つめてしまう。
「それにしても冴島桃香はとんだ悪女ね。何様のつもり?隊長を陥れようなんて卑劣極まりないわ。今夜にでも殺しましょう…」
「まぁ待て詩調。キミの気持ちも分かる。だが殺すのはやめてくれ」
「どうして?」
「事を大きくして万が一キミ達に危害を加えられたら困るからな。あの女は私を地獄に落とす為だったらどんな手も使うらしい」
「呪いの人形でも作ろうかしら」
「(サラッと恐ろしいことを…)」
味噌汁に映る自分の顔を見ながら、詩調は忌々しそうに舌打ちをした。
「いつか絶対殺す。」
焼き魚の目玉を持っていた箸でドスッと突き立て、殺気の篭る双眼を宿す詩調。それを見た琉生は身体をぞっとさせた。
詩調の怒りを余所に、コップに注がれた水を飲む梨央を見て蒼生は言う。
「随分と楽しそうだな」
「うん。みんなとこうして食卓を囲んで美味しいご飯を食べられて楽しいよ」
「そうじゃなくて」
「ん?」
「面白い事が起こって顔がニヤついてる」
「さすがお兄ちゃん☆」
「お兄ちゃん言うな」
「最悪な事件が起こったって言うのに、何故だか私の心が愉しさで舞い上がってるんだ」
「この変人。」
「酷いなァー」
「“それ”、お前の悪い癖だぞ」
「わはは」
「呑気に笑ってんじゃねェよ」
面白い事が起こるとすぐに楽しんでしまう妹の悪癖に蒼生は呆れ返る。
「彼処にいた頃は毎日が退屈で仕方なかったんだ。今回の事件は絶好のタイミングだよ。面白そうで思わず笑いがこみ上げそう」
「(こいつマジでドSだな。)」
「ふふ♪」
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