第16章 トモダチ ト ナカナオリ
「第零監獄には秘密の抜け穴があるらしい。それをあの男は知っていた。同じ恨みを持つ者同士、協力しない訳にはいかないだろ」
「本当に此処から出られるのね!?」
「あぁ、もちろんだ」
「(気が狂いそうになってた。何も見えないし、何も音がしない。まさに“無”…。でもこれで、この薄気味悪い処から出られる──!!)」
「だからもう少しの辛抱だ。我慢できるな?」
「分かったわ」
この監獄に収監されてから、桃香の心は壊れ始めていた。しかし、其処から出られると知った途端、桃香の表情に希望の色が窺える。
ガチャッ
「交代する」
厳重な扉を開けて入って来たのは黒装束を着た男だ。頭までフードを被っていて顔は見えない。だが看守は不思議そうな顔でその男に尋ねる。
「子の刻も私が引き続き担当の筈だが?」
「上からの指示で変更になった」
「…そうか」
看守は上からの指示なら仕方ないと言うような表情を浮かべ、時刻表の横に自分の名前を書き記した。それを次の看守の男に手渡す。
「ではお前の名前を記入しておいてくれ」
「了解した」
「【丑】の刻には別の看守が来て【子】の刻のお前とは交代になる。それまで引き続き頼む」
「あぁ」
男は部屋を出て行った。
時計の針が【12】を差す
少し前の出来事だ───。
「さてと…」
黒装束に身を隠した男の口許がニヤリと笑う。
「助けに来たぜ」
それにつられて悠人もニヤリと笑った。
「随分と遅かったな」
「この監獄はセキュリティが厳重だからな。下手に気を急くと潜入した事がバレて脱獄は失敗だ。んで…どうよ?気分は。」
「死ぬより苦痛だな、色んな意味で。」
「此処は異質な存在を持つ者を閉じ込めて罪を償わせる為に創られた牢獄だ。普通の奴じゃ居心地が悪くて飯も喉を通らねえ。最悪、自分自身を保てず、狂っちまう」
「この監獄の事、良く知ってるんだな」
「あ?有名だろこの監獄は。だから俺でも知ってるってだけの話だ」
「そんな世間話はどうでもいいのよ」
桃香が苛立つように男を睨みつける。
「早く此処から出して」
「そう急かすなって」
男は持っていた鍵を鍵穴に差し込む。
.