第2章 悪夢のはじまり
無に近い表情で流歌はこちらを見ている恋次を見つめる。その眼に憎しみの色を宿した恋次は怒りで表情を歪めると、桃香の身体を近くの隊士に預け、ズンズンと歩み寄り、流歌の目の前で立ち止まる。
「……………」
流歌は遥かに体格が大きい恋次をじっと見上げる。怖い顔を浮かべた恋次は流歌の持つナイフを見た瞬間、怒りを爆発させた。
「っ!!」
ブンッと拳を振り上げ、流歌の頬目掛け殴りつけた。バキッという痛々しい音が響き、殴られた衝撃で眼鏡が吹っ飛ぶ。
「てめえかっ!!!」
口の端から血が垂れ、それを流歌は指先で拭う。強く殴られた頬は青紫色に変色していた。
「桃香をこんな目に遭わせやがったのはてめえかって聞いてんだよ!!!」
「……………」
怒りで震える恋次に作り笑いを浮かべる。
「僕を責める暇があるなら早く彼女を四番隊に連れて行った方がいいのでは?」
「何だと…?」
「刺した場所が悪ければ手の施しようがありません。まぁ…僕には関係ないですけど」
「関係ねぇだと!?」
「気に障ったのならすみません。ほら、彼女の顔色が段々と悪化してますよ。急がなくていいんですか?」
クスッと小さく笑えば、その場にいる全員の霊圧が上昇した。だが流歌はその霊圧の苦しさを物ともせず、平気な顔をしている。
「なんの騒ぎだ!!」
少し遅れてやって来た隊士が人混みを掻き分けて現れた。
「冴島!?」
「…日番谷隊長」
驚いた表情を浮かべる日番谷は隊士に抱えられた桃香を見た後、恋次の前に血の付いたナイフを持って立っている流歌に気付き、ぐっと眉間を顰めた。
「どういう状況だ?」
「この野郎が桃香を刺したんですよ!!」
そう叫ぶ恋次の拳は怒りで震えている。
「…神崎だな?」
日番谷はゆっくりと流歌に歩み寄る。
「この騒ぎの原因はお前か?」
「はい」
「その血は誰の血だ?」
「冴島四席のです」
目撃者の女隊士が“やっぱり!!”という表情を浮かべた。
「冴島があんな状態になったのはお前のせいか?」
「…いいえ」
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