第2章 悪夢のはじまり
「桃香ちゃん!!!」
偶然にもその場を通りかかった女が血を流して倒れている桃香を見て悲鳴を上げた。
「あ、あなた…」
女は青ざめた表情で桃香の血が付着したナイフを握っている流歌に視線を移す。
「(チッ…厄介な事になった。)」
よく見れば自分の死覇装にも返り血が飛んでいる。流歌は訝しげに表情をしかめた。
「なんだ今の悲鳴!?」
「どうした!?」
盛大に叫んだ女の悲鳴に数人の隊士達が驚いた顔で外に飛び出して来た。
「おい!何があっ───」
駆けつけた隊士達が目の前の状況に思わず言葉を止める。そして先程の女隊士と同じように驚いた表情を揃えた。
「桃香ちゃん!?」
「え!?何で血が…!?」
「どういう状況だよ!?」
「(あぁ…煩わしい“雑音”だな…)」
「悲鳴が聞こえたけどどうした!?」
遅れてやって来た赤髪の男はその瞳に血濡れた桃香を映す。口を半開きにし、唖然とした表情を浮かべている。
「(あれは…副官が付ける腕章?ということは彼は何処かの隊の副官なのか?)」
事前に貰った資料から該当する人物を頭の中で探す。
「(赤髪で副官…。確か名前は…)」
「阿散井副隊長!!」
「(そうだ。六番隊副隊長の阿散井恋次。)」
副官でありながら既に卍解を修得している
隊長クラスに近い実力者────。
「っ…桃香!!おいしっかりしろ!!」
恋次は桃香に駆け寄り、体を抱きかかえる。
「お前…どうしたんだよ!?」
気を失っている桃香を見て取り乱す。
「誰かこの状況を説明しろ!!」
冷静ではない恋次は暗闇に紛れる流歌の存在にまだ気付かない。その場にいる全員が戸惑っている中、目撃者の女隊士が震える手を伸ばし、ゆっくりと流歌を差した。
「その男です!!
そいつが桃香ちゃんを刺したんです!!」
暗闇の中から一歩、前に踏み出す流歌。全員の視線が彼に注がれる。そして女隊士は更に声を上げて叫ぶ。
「まだナイフを持ってる!!きっとそれで桃香ちゃんを刺したんです!!また誰かを刺すかも知れない…!!」
「確かお前は…神崎…?」
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