第10章 大切だから許せない
その頃、誰よりも早く仕事を終わらせた蒼生は竹刀を持って鍛錬をしようと稽古場までの道を歩いていた時だった。
「高峰君っ♪」
「!」
「こんな所で会うなんて奇遇だねぇ❤︎」
蒼生は妹と違って感情を隠さない。それが例えどんなに偉い人物であろうと。だから桃香を見た蒼生は思いっきり嫌そうに顔をしかめた。
「高嶺君って本当にかっこいいんだね❤︎桃香、ドキドキしちゃう❤︎」
「…何か用か」
「高嶺君って、流歌君と仲いいの?」
「何でそんなこと聞く?」
「他の隊士がねー、話してるの聞いちゃったの。高嶺君と流歌君はまるで親友みたいにすごぉーく仲良しさんだって」
「(“親友”ねぇ…)」
「そしたらね?
十一番隊の隊士が言ったの」
その瞬間、桃香の雰囲気が変わる。
「“高嶺君は流歌君を大切に想ってる素敵な人なんだよ”…って。」
可愛い声はそのままなのに、トーンはいつものぶりっ子ではなく、低めの声。
「(チッ、余計なこと言いやがって…)」
どこの誰かも分からない奴を恨んだ。
「ねぇ…二人はどういう関係なの?」
「別に」
「え〜教えてよぉ。桃香、秘密にされるの…とぉーっても悲しい」
「(マジでうぜぇな。)」
「そーだ!二人の関係を教えてくれたら、桃香、高嶺君にイイコトしてあげる!」
「結構だ」
「ま、待って!」
スタスタと歩き出す蒼生を桃香は慌てて追いかける。
「…お前、鬱陶しいんだよ」
「高嶺君ひどぉーい…。桃香はただ、質問に答えて欲しいだけなのに…ぐすっ」
「(泣き真似ヘタ過ぎだろ。)」
「そんなに教えるの嫌がるってことは…もしかして高嶺君って…同性愛者?」
「は?」
「流歌君のこと好きなんでしょ?
ね、付き合ってるの?」
「……………」
“こいつ何言ってんだ?”というような顔で蒼生は引いている。
「ねーねー、そうなの?」
「お前、こんなこと探って楽しいか?」
「ふふっ。桃香はみーんなのことが知りたいだけ。例えそれが人には言えない禁断の秘密でも…ね❤︎」
パチンとウインクする桃香を蒼生は心底軽蔑した。
.